美味なる音楽の饗宴
田所光之マルセル(32歳)がラ・ロック・ダンテロンで繰り広げたのは、実にさまざまな時代・様式・国のピアノ練習曲を音の“美食家”たちに一挙に味わわせる、考え抜かれたプログラムだった。
ツェルニー50番練習曲からの1曲に始まり、次いでそのツェルニーをパロディ化したドビュッシーの《5本指のために》が鳴り響く。2022年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで特別賞を受賞した田所は、いくつかの珍しい楽曲で私たちを大いに楽しませてくれる。ヘンゼルトの《もしも私が鳥ならば》(この作曲家の練習曲全集を録音したばかりだ)、バルトークの練習曲、さらにはシューマンの《ベートーヴェンの主題による自由な変奏形式の練習曲》(交響曲第7番のアレグレット楽章の主題が用いられている)と続いて行く。フランスと日本にルーツをもつ田所は、味わい深いコントラストに富んださらなるご馳走で私たちをもてなしてくれる。メシアンの急進的な《音価と強度のモード》のすぐ後に、グルダの『Play Piano Play』からジャズ風の練習曲第4番を置いたのである。田所は終始、淀みのない余裕、演奏する喜び、リストの華々しく技巧的な《ラ・カンパネラ》などで求められる絢爛華麗さを、抗いがたい魅力を放ちながら融合させていた。ラフマニノフの《音の絵》作品33-3は、田所の“響きの彫刻家”としての手腕が発揮され、そして最後、ドホナーニの《カプリッチョ》([ピアニストでもあった]ラフマニノフが好んで弾いていた練習曲である)が、この日のリサイタルを輝くばかりの終結へと導いた。非の打ちどころのないプログラムを届けた大胆果敢なピアニスト、田所の今後の活躍に期待がふくらむ。
2025年8月15日 仏Diapason誌のBertrand Boissard氏による批評
